狩屋の姫地蔵 (畠田にまつわる話)


400年前、岩尾山に、花房山城というお城がありました。
ある年のこと、そのお城がはげしく攻められ、ついに落城し、城主は命からがら、岡垣の城に逃げのびました。
お城には、たいそう美しい姫がいましたが、この姫も、敵の目を逃れて城を脱出しました。
がけで転んだり、木の根っこに足をひっかけて、あちこちけがをしながら、やっとのことで、畠田の狩屋の里まで逃げてきました。
どこか、かくまってくれるところはないだろうかと、探しまわりましたが、村人たちは、かかわりあいになるのを恐れて、戸をかたく閉ざしています。あたりは暗くなり、姫は心細くなってきました。村はずれで、一軒の戸をたたきました。
「追われています。つかまったら殺されてしまいます。お願いですから、かくまってください。」
この家に住む心やさしい老夫婦は、その言葉使いから花房山のお姫さまにちがいないと思いました。「どこかかくまってあげる所はないものか。」と家の中を見まわしましたが、貧しい暮らしです。身一つかくす物かげすらありません。
そのとき、遠くから足音がひびいてきました。追っ手がせまってきたのです。
おじいさんは、とっさに庭先にあった桶を姫にかぶせました。
手に手に刀をもった追っ手の武士たちが、大勢やってきて、一けん残らず探し始めました。
ついに、老夫婦の家までやってきました。
「姫を見なかったか。姫をかくまったものは、殺してしまうぞ。」
老夫婦は、家のすみでブルブルふるえています。
あたりは暗くて、なかなか姫は見つかりません。追っ手が、あきらめて引きあげようとしたときです。雲間から月が顔を出し、庭先一面を照らしました。
なんと不運なことでしょう。あざやかな赤い花柄の着物のすそが、桶から少し出ていました。
「姫がいたぞ。姫を見っけたぞ。」
.とうとう姫は見っかり、狩屋川の川原に引き出されて殺されてしまいました。
このことがあってから、狩屋の里では、月夜の晩には火の玉がとび、真っ赤な炎の中に悲しげな姫の姿が見え、しまいには、花柄模様に似た紅の花が咲かなくなくなりました。
「姫のたたりじゃ。たたりにちがいない。」村人たちはふるえあがりました。そこで、お坊さまに相談して、小さなほこらにお地蔵さまをまつり、姫の霊をなぐさめました。すると、恐ろしいことがぴたりとおさまり、紅の花も以前にもまして美しく咲くようになりました。
狩屋には、古木に囲まれたお地蔵さまが、今もひっそりと立っているそうです。



絵:本校美術部
民話と伝説マップ北九州第3集 むかしばなし (北九州市企画局企画課発行)から

花房城のあったところ 運動場から花房山を望む